病院内の混乱に乗じて外へ出る。

平沢の姿を認めたのか、駐車場に静かに止まっていた黒の8人乗りの車のドアが開く。

「平沢さん」

「とにかく入れろ。琴音が限界だ」

信洋を抑え、平沢は琴音を抱いたまま乗り込む。

車の中に用意させていたのは、COPDの患者が日常使いする酸素ボンベ。人工呼吸器と繋がったそれを琴葉の口に当てる。

少し顔色の悪い琴葉の頭を撫でた平沢は安堵の息を吐いた。

その間に助手席に乗り込んだ信洋は心配そうに振り返ったものの、息をついて正面に向き直した。

「なんだ、あいつら」

「多分、黒幕の手駒だと…」

「事前に分かんなかったのか」

平沢の責める言葉に信洋は口をつぐむ。

生命維持装置の搬入や、琴葉を屋敷に連れてきたタイミングで診てくれる医者の手配など、琴葉を無事に受けいるための準備に追われていた。