屋敷に戻ってから、信洋がすれ違う奴1人1人に報告したせいで一気に屋敷内が歓喜に満ちた。中には泣き崩れる奴までいて…。

琴音の存在が組の奴らに与えていた影響は想像以上にでかかったことを目の当たりにした。

この1か月、息の詰まるような緊張感が常に屋敷の中にあった。正月でさえ、誰1人としてバカ騒ぎする奴がいなかった。

その緊張感を広げている中心が俺であることにも気づいてはいたが、どうにもできなかった。

信じて待つ。それが、どんなに苦しいか。眠り続ける琴音にたった5分の面会のために毎日病院に足を運びながら、いつあの壁がなくなるのかと不安と焦りがまとわりついていた。

それが消えた。俺は今どんな顔をしているんだろう…。

『お兄ちゃん!!』

どこからか走ってきた梨々香に背中から飛びつかれる。

『ことねぇが病室移るって本当!?面会、行ける!?』

『あぁ。明日の朝、確定する』

『ッ…!!よかった…よかったぁ…』

梨々香の頬に涙が伝う。頭を撫でると、正面から抱き着いてくる。

ずっと琴音のことを心配していた。だが、決して面会したいと、一緒に行くと言わなかった。

それはきっと、俺の余裕のなさを見て、身を引いたから…。ずっと、我慢させていた。こんなこと、琴音ならきっとすぐ気づいていたはずなのに。

兄貴、失格だな…。

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