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『明日、朝の精密検査で異常がなければ一般病棟に移ります』

『は?』

突然の言葉に頭がついて行かない。

呆然と目を見張る俺に、名蔵はフッと笑みを浮かべる。

『あなたの言う通りになりましたね。彼女は死なない』

『ッ…琴音は、もう大丈夫なのか!?』

『…そう言う質問になるのならば、答えはNOです』

『はぁ?』

『集中治療室にいなければならないほどの危険な状態を脱したと言う意味です。ですが、簡単に転げ落ちてしまうような命ではない。このまま順調にいけば、人工呼吸器も外せるでしょう』

医者がいうのもおかしいですが、奇跡が起こったのかもしれないですねと名蔵は続けた。

1か月かかった。だが、ようやく琴音が手の届く場所に戻ってくる。

その事実を飲み込むのにしばらくかかって、ようやく我に返った頃には名蔵の姿はなかった。車に戻ってすぐ信洋にそのことを告げると同じように固まって、すぐに顔を背けた。

『よかった。…ここちゃん、頑張ってくれたんだね』

その言葉が湿っていたのは、きっと気のせいじゃない。