「待ってください」

「あ?」

そのまま病院から立ち去ろうとすると、名蔵に呼び止められる。

その目は真剣で、自然と足を縫いとめられるようにその場に立ち止まらされた。

「今なら聞けるでしょう。彼女の話をさせてください。僕には彼女の身元を引き受ける方に説明する義務がある」

「…分かった。話せ」

こいつ、分かってやってやがる。俺が昨日聞く余裕がないことも、覚悟を決めた今なら受け入れられることも。

気に食わねぇ。医者としての腕は信じられるとは思うが、こいつと付き合いはしたくねぇ。

そんな俺の思いすら読んでいるのか、名蔵はすぐに行動に移し、導かれたのは応接室だった。

既に用意されている琴音のカルテとレントゲン写真。それを簡単にセットした名蔵は早々に口を開いた。