季龍side

翌日、再び病院に向かった。

集中治療室と一般病棟を分けるドアの前に来ると、呼んでもいないのに担当の名蔵が姿を見せた。

一瞬俺に視線を向けた名蔵は何も言わないまま、集中治療室のドアを開ける。それをくぐると、やはり空気が違うように感じた。

導かれたのは昨日と同じ部屋。昨日と同じベッドで、琴音は静かに眠っていた。

昨日は超えられなかった境界を踏み越え、琴音の傍らに立つ。

無機質な音が響く。馬鹿でかい点滴が揺れる。

恐る恐る手を伸ばす。そっと触れた琴音の頬はわずかにぬくもりを持っていた。

だが、その熱はあまりにも低くて、寒さに震える琴音の姿が浮かぶ。頬に手を添えるように触れると、俺の体温を琴音に分け与えているような感覚になる。

「…琴音」

返事はない。そんなこと、分かっている…。

「…悪かった。…許さなくていい。罵ってくれればいい。…早く、起きろよ」

もう今度は迷わない。お前を守るためならどんな手でも使う。

それが例え、通りから外れたことだとしても…。