「必ずとは言えない。覚悟はしておいてください」

背を向けた医者の言葉に振り返る。俺をまっすぐに見据えた目は、決して絶望などしていなかった。

「最善は尽くします。あなたは、祈って、彼女を引き留めてください。決して、あなたが諦めてはいけませんよ」

「…当たり前だろうが」

返した言葉に医者は早足で退室していく。

正直、圧倒された。静かなのに、決して人相が悪いわけでもないのに、ただただあいつの医者としての何かに圧倒された。

「通ります!」

琴音を乗せたタンカを医者と看護師が運んでいく。浅い息を繰り返す琴音に気づいたら手を伸ばしていた。

琴音の頬に軽く指が触れる。実際に届いたのかも分からない。だが、処置室を出ていった琴音の姿をただ見つめることしか出来なかった。

「あの、あなた方もお怪我を」

「あ?」

その時、体に痛みが走る。

怪我を負っていたことを思い出した。火傷した喉に激痛が走る。息が詰まる。

「若?…おい!?」

「ッ先生呼んできます!!」

「ッ若!おい!若、わか…!!!」

体が言うこと聞かねぇ…。

意識が離れていく。音が完全に聞こえなくなって、落ちた。