舛田が話始めたのは、私がここに連れてこられてからの話。

…家族を売った、無情の、最悪の父親だと季龍さんが信じていた関原 隆治さん。

正直、ここに連れてこられてからの記憶はほとんどない。

ただあるのは、熱くて、寒くて、真っ暗で、真っ白で、気持ち悪くて、気持ち良くて、頭の中をかき回されたような、そんな感覚だけ。

でも、暗闇の中で唯一私を励ましていたのは、紛れもなく関原 隆治。彼の言葉だった。


「必ず助けは来る。だから、もう少しの辛抱だ」

「もう少し、もう少しだけ我慢しなさい」

「助けに来る。だから、希望を捨てるな」


絶望の中で、そんなの夢物語だと捨て去ってしまいたくなるような言葉だった。

でも、捨てきれなかったのは、彼が必ず口にした名前のせい…。


「必ず季龍は来る。必ず、必ずだ」


その名前に何度希望を抱いたんだろう。

何度、堕ちかけた心を引き留められたんだろう。