沈黙が満ちた部屋で始めに動いたのは片目の少年だ。

「立て」

「…」

腕を捕まれ引き上げられるように立ち上がる。そのまま歩いていく少年に連れていかれるような形で歩く。

でも、響いたのは2人分の足音だけ。

ドアを出るところで足を止めた少年は舌打ちして、近くにあった小石を遠くを見ているような男性に向かって蹴り飛ばした。

「ぼさっとすんじゃねぇ!」

小石をぶつけられた男性は、ようやくこちらを見る。そして、のろのろと歩き出すのを見て少年も歩き出す。

建物を出ると止まっていたのは1台の高級車。

迷わずそれに近づいていく少年を迎えるように開いたドア。

その瞬間、空気が凍りつく。いつの間にか見開いていた目は、同じような目をした男性を写す。

ここにいるはずのない、いるわけのないはずの人物を…。

「…どう、して………」

口から無意識にこぼれた言葉に男性の表情が険しくなる。

「…つくづく、運がないようだな。琴葉」