その頃には俺も信洋も一言も発さなかった。ただ目の前の黒のワゴンを追いかけ続ける。

不意に信洋は前を走っていた黒のワゴンを追い抜き、急停止する。それにならって止まった黒のワゴンに駆け寄っていく信洋。

だが、中から出てきたのは明らかに無関係な家族連れの父親だった。

一方的に怒鳴られてきた信洋が車に戻ると、無言で車を走らせる。

手がかりはなくなった。

もうどれだけ車を走らせても奴らは見つけられないだろう。

『季龍さん!』

…俺のせいだ。守ると誓ったのに、2度と巻き込まないと誓ったのに。

どうして女1人まともに守れねぇんだ。

車が止まったのは人気のない空き地。車を出ていった信洋は、当たり散らすようにその辺に転がるドラム缶を蹴り飛ばす。

信洋は普段冷静だ。だが、時々押さえきれないものがたまるとこうして当たり散らす。

叫びながら、己の無力さを嘆きながら。イラつきをぶつけ続ける。

しばらくして戻った信洋は、再び車を走らせる。向かってるのは言うまでもなく屋敷だ。

親父の知恵を借りなければ。一刻も早く琴音を連れ戻さなければ…。