「っ信洋!追いかけるぞ!!」

「っおう!!平沢さん!あとたのんます!!」

「速く行け!!!」

ドアを閉めるのも待たずに走り出す車。

運転する信洋はいつも以上に荒い運転で、黒のワゴンを追う。

どうして奪われた。目の前にいたのに、俺が、油断さえしなければ…。

「っくそ!!」

「若!どこ行ったか探せよ!!」

「分かってる!!」

車を縫うように道路を進む。

だが、その時目に写った光景に言葉を失った。

“黒のワゴンに囲まれていた”。まるで視界を塞ぐように。明らかな陽動を突きつけられていた。

「ナンバーは!?」

「…見てねぇ」

「っくそ!!」

拳をハンドルに叩きつけた信洋は苛立った様子を隠すこともない。

俺たちを嘲笑うように黒のワゴンは1つ、また1つと姿を消していき、やがて信洋が狙いを定めた1台だけになる。