季龍side

油断した。あれほど警戒していたはずなのに。

琴音は気付いていたのに、どうして信じられなかったんだ。

目の前にいるのに、抱き締められる距離にいたのに…。

奏多と瓜2つ。いや、どう見ても奏多にしか見えない目の前の男は銃口を琴音に向け続ける。

先程駐車場に入ってきた黒のワゴンに乗っているのは3人。

睡眠薬か何かで眠らされた琴音が車内に引きずり込まれるのを黙って見ていることしか出来ない自分を殺したくなる。

だが、1歩でも動けば琴音は殺される。確実に殺せる距離で拳銃を突きつけていた男は不意に笑みを浮かべた。

不意にポケットに手を突っ込んだ男は、取り出したそれを俺に向かって投げる。

一瞬、そちらに気をとられた隙にワゴンに乗り込んだ男は、すぐさまドアを閉める。

迷いなく走り出した車に銃弾がめり込む。それでも、車は止まらない。

「とりあえず、お姫様は預かる。それ、なくすなよ?」

僅かな窓の隙間から男の目が見える。

俺を嘲笑うような目はすぐに消え、猛スピードで車は走っていく。