「……眞?」
そしてその手を俺の口元に寄せる。
沙都の細い指の一つ一つに口付けて行く。
そして、すぐそこにある沙都の表情に視線を向けると、既に顔を赤くしていた。
「急に、どうしたの……?」
白い肌が色めいて、その瞳がゆらゆらと揺れて。
「ううん。どうもしないよ。沙都こそ、どうしたの? そんなに顔を赤くして」
「え? だ、だって、指……」
最初はただ唇で触れただけだった。
でも、そんな風に恥ずかしそうな顔をされれば、その先の表情《かお》も引き出したくなる衝動に襲われる。
「ひゃっ」
包み込むように指を掴んで、俺の口元に運ぶ。
「ま、眞っ」
「ん? 何?」
「何って」
ゆっくりと舌を絡める。決して急いだりしない。
沙都の変化を確認していくみたいに、ただゆっくりと。
「……イヤ?」
一応聞いてみる。
でも、沙都はより一層恥ずかしそうに俯いて、ただ頭を横に振った。
沙都は俺の妻だから。
誰よりも愛しているし、誰よりも信じている。
その気持ちが揺らぐことはない。
だから、ほんの少しの不安を解消させて――。
「沙都、疲れてる?」
指を口から離し、沙都を俺の身体の下にして見下ろした。
俺の意図を察知したのか、更に顔を赤くした。
「疲れてる……よな」
さっき眠りこけていた姿を思い出す。
ここはゆっくり休ませてやるべきで、そっと抱きしめて眠りにつく――。
それが、男としての正解。
でも、こんな風に諦めきれなくて聞いてしまうあたり、俺がまだまだダメな証拠。
だけど、正解に近づこうと理性を総動員させて、この欲情を押し留める。
「……ううん。大丈夫だよ。明日は土曜日だし」
なのに、沙都が俺から視線を逸らして、そんなことを言った。
その顔はだめだ。
そんな風に恥じらいながら、そんなことを言うなんて、それは自殺行為だぞ。
「……沙都。それ、そんなこと言ったらどうなるか分かって言ってる?」
それじゃまるで、どうぞ襲ってくださいと言っているようなものではないか。
「分かってるよ。私、そこまで、バカじゃない」
それでもまだ顔を思いっきり逸らしたまま。
でも、そのせいで、パジャマの襟元から鎖骨がくっきりと見えて。
俺を煽る。
そして、あろうことか、沙都はとどめを刺して来た。
「……私も、したい」
たった今、俺の理性はすべてシャットダウンした。



