それにしても、いつからこんな行き当たりばったりな人間になったんだ……。これまでの、石橋を叩いても渡らない性格の反動だろうか。

私が『仕事辞めてニューヨークの語学学校に通うことにした』と先月電話で生田に言ったら、数秒固まっていた。数秒無言でいたかと思ったら、突然意識が戻ったように大声を上げたんだっけ。

『ど、どうしたんだよ! 辞めるって、おまえ、何を辞めるって? 語学学校って、なんだったか? あれ? ということはつまりどういうことだ』

ちょっと、何言ってるのか分からないんですけど。

『だから……。仕事やめてニューヨークに行き、語学学校に通います。入学を申し込んだのは半年のコースだから少なくとも半年はそちらに滞在することができるようになりました。ということです』

仕方がないから順序だって説明してやった。勝手にそんなことを決めて生田がどう思うのか、怖くないと言ったら嘘になる。でも、もう自分の気持ちに蓋をしたりしたくなかった。

『……住むところは?』

「え?」

その声が、少し強張っているような気がして、また少しだけ”臆病沙都”が顔を出そうとする。

迷惑――だよね。やっぱり……。

『どこに住むのかもう決めたのか?』

「えっと、語学学校がいくつか寮を持っているみたいで、それが一番手っ取り早いかなとか、考えているんだけど……」

本当なら生田のアパートで一緒に住みたいけれど、住居費としてかなりの手当てが公費として出ているはずだ。そこに配偶者でもない人間が転がり込むのは、ちょっとまずい。だから、生田のアパートに近い寮をピックアップしていた。

『それ、もう申し込んだのか』

「ううん、まだ。これからだけど――」

『それ、絶対まだ申し込むなよ』

「え? な、なんで……」

『うるさい! そんな大事なこと、相談もせずに勝手に決めやがって。こっちにはこっちの段取りってものが……』

ぶつぶつと文句を言っている。

「段取り?」

『こっちの話だよ。本当におまえって奴は……。どうしてそうも突拍子もないことをするかね』

「ごめん。呆れてる……?」

襲る襲るそう尋ねると、生田が溜息をつくように息を吐いた。

『呆れるというか、驚いてる。でも……嬉しい』

――嬉しい。そう言ってくれたことに、私も笑顔になる。

『それにしても、本当に沙都か? おまえがそんなことするなんて、まだちょっと信じられない』

そう言って、生田が笑った。

『――とにかくだ。そうと分かれば今すぐにでもおまえのところに行きたいけど、そうもいかない。そうだな……夏なら。夏なら夏季休暇が取れるから、なんとか7月末には帰国できるように手配する。住む場所については、その時に決めるのでも間に合うな?』

「語学学校は9月からだからギリギリ間に合うと思うけど、帰って来てくれるの……?」

『あたりまえだ!』

――ということで、あと少しで生田がこっちに戻って来てくれることになっている。