予想通り、どれだけアルコールを身体に流し込んでも私の心は張り詰めたままだった。
「桐島とかれん、やっぱり付き合うことにしたんだ! いつから、いつから?」
だから、無理にでもアルコールのせいにして騒ぐしか方法がなかった。
「えー? 恥ずかしいから、桐島君から言ってよー」
かれんが頬を赤らめながら照れている。
「桐島、いつの間に? もしかして、俺たちの代の同期同士カップル第一号じゃね?」
すぐ近くにいた別の男が騒ぐ。
「言われてみればそうだな。そりゃ、めでたいわ」
京子と、そして希だけは複雑な笑みを浮かべている。
「お幸せに! ということで、この二人にも祝福の乾杯をしようよ。じゃあ、みんなグラスを高く!」
そんな二人の視線から逃げるように声を張り上げて、私は真っ先にジョッキを高く掲げた。
「うえーい!」
「だから、おまえのその音頭は何だって言うんだよ。もう少し可愛いの出来ないのか」
桐島のくせにうるさい。
「はいはい。じゃあ、気を取り直して、カンパーイ!」
破れかぶれの私は破れかぶれの笑顔を振りまいて、またもそのジョッキの中身をそのまま喉に流し込む。
「飲み方まで、女らしさの欠片もねーな……」
遠山が呆れたように私を見ていた。
『おまえ、いつも、本当に美味そうにビール飲むよな』
いつだか、私を見て生田が言った。どうして、今、そんなこと思い出すんだ、私め。
「だから、おまえはいつまでたっても男っ気がないんだよ」
遠山に便乗するように桐島が悪態をつく。
そうだ、もう前の私に戻ろう。みんなから女じゃないとか、色気がないとか、言われていた自分に。そもそもの自分に――。
「はいはい。悪かったですね。反論の余地もござませんよ、と」
「開き直り始めたか。人間、開き直ったら最後だぞ? もう少し女らしくだな――」
「あーあーあー、あんたにそんなこと言われる筋合いないですよ」
私、一体、何やってるんだろーー。
「あ、すみません! 日本酒、熱燗で!」
うるさい桐島を遮り店員さんを呼ぶ。
「まだ、飲むのかよ!」
どうして、今日のお酒は、私を酔わせてはくれないんだろう。
「内野―、こいつ吐きそうだって」
いつものように、何かが起きればみんな私を頼って来る。
「じゃあ、おしぼりと水、多めに頼んでおくから、トイレに連れて行ってあげて!」
「了解」
その男が今にも大変な状況になりそうな同期の男の肩を支えて、座敷を出て行く。そして私はすぐに店員さんに水とおしぼりを頼んだ。
「沙都」
「なに?」
そんな私を、何か痛々しいものでも見るように希が見つめていた。
「今日は、えらく元気だね」
「え……?」
その目が何かを私に訴えようとしている。
「元気すぎて、逆に不安」
多分、希は全部分かっている。



