「無条件に俺を信じてくれなんて思わない。何があっても信じていろと言うつもりもない。それでも、せめて、俺に直接その怒りや疑いをぶつけてほしかった。たとえ俺を疑ったんだとしても、どうしてそれが出来なかった?」

その目を見つめれば見つめるほどに、胸の痛みが大きくなっていく。

「この前、おまえと田崎のことを疑ってしまった時、どんなに怖くても俺はおまえに直接問い質した。それはなぜだと思う?」

私は多分、大きな間違いを犯した。そして、大事な人を傷付けた。その恐怖が胸に広がって行く。

「事実と向き合うのが怖いと思っても、俺は、おまえを信じたいって思ったからだ。おまえと離れるなんて考えられなかったからだよ。でも、おまえは違った」

ふっと生田の身体から力が抜けたのが分かる。その肩が力なく下がって。哀しげな笑みを浮かべていた。

「おまえは何もせずに、このまま俺から離れて行こうとしたんだよな。結局、沙都にとって俺は、そんなに簡単に離れてもいいと思える程度の存在にしかなれなかったってことだ」

「ちが……っ」

「何が違うんだよっ!」

生田が辛そうに私から目を逸らした。その横顔を必死に見つめても、きっともう何伝わらない。そんな気がした。

「――最後に一つだけ教えてくれ」

聞き慣れているはずの生田の声が、哀しく響く。

「一緒にいて、おまえには俺の想いは何にも伝わっていなかった? 俺の愛し方じゃだめだったのか……?」

頭を何度も振るけれど、もう何も、生田の目には映っていないようだった。生田はいつだって私を大切にしてくれていた。たくさんの愛情で包み込んでくれていたのに。今頃になって、それを思うなんて、私はどれだけ馬鹿なんだろう。この寒空の下、コートも着ずスーツの上着も着ていない。

きっと、私を追って、仕事もそのままに職場から追いかけて来た――。

「俺がおまえに向けた愛情は、湧きあがった不安をほんのわずかでも打ち消す力さえ持っていなかった。少しも俺のことを信じたいと思ってもらえなかった。それが何より虚しいよ……」

生田の言う通り、私は生田のことを信じることができなかった。自分の気持ちしか、考えていなかった。

「おまえは結局、俺のこと、好きにはならなかったんだ。そう言えば、おまえから『好きだ』って言われたことなかったしな……」

でも、それは、生田のことを想っていなかったからじゃない。私は生田のこと、心から好きになった。だからこそ怖かった。だけど――、その怖さに負けた私は、結果として生田を裏切ったのだ。

「おまえは、俺といたいと思うことより自分を守ることを選んだんだ」

生田が、そう、はっきりと言い放った。

「俺はずっと、おまえの気持ちがどうであれ、俺がおまえを好きで大切にしていればそれでいいと思っていた。それで少しでもおまえを幸せな気持ちにさせてやれるなら、それでいいって。でも、俺がどれだけおまえを想っていても、それは何の意味もないことだったんだ」

こんなにも傷付けて。そんな表情をさせておいて。私には泣く資格なんてない。