臆病者で何が悪い!


「きっと……、沙都だよね。田崎さんは、沙都のこと――」

こらえるように吐かれた言葉に、私は希の顔を強く見つめた。

「何をバカなこと言ってんの? そんなことあるわけないじゃん!」

「沙都、田崎さんのこと好きだったよね? 私、本当は気付いてた。沙都はいつも冗談まじりに喋って誤魔化していたけど、でも本当はちゃんと好きだったって。それなのに私が、横取りしたようなもので。だからバチがあたったのかな――」

「おかしなこと言わないで!」

腹が立って、悔しくて。二人の関係をよく分かっているわけでもないし、ましてや田崎さんの心の中なんてこれっぽっちも分かりやしない。でも、これだけは根拠もなく確信がもてるのだ。田崎さんは、私のことなんて好きなわけではない。

「希は横取りなんてしてないし、バチなんてあたらない。田崎さんは希が好きで、希も田崎さんを好きになった。ただそれだけのことじゃない。そうやって二人は恋をした。だから、ちゃんと向き合わないと。希のその苦しい気持ちを田崎さんにぶつけなよ」

どうしてこんなに哀しいんだろう。目の前で涙を拭う希を見ていたらたまらない気持ちになった。

「ねぇ、希。明日の朝、田崎さんに連絡しよう? 明日は休みだもの、ちゃんと会って顔を見て、話をした方がいいよ。今日はもう、うちに泊まっていいから」

希の背中をさすりながら言葉をかける。そんなことで希の気持ちを楽にしている自信はまるでなかったけれど。

「……沙都のスマホ、光ってるよ?」

ベッド脇に適当に置いておいたスマホが光を点滅させながら振動していた。

「ちょっと、ごめんね」

ベッドの上で座り込んでいた希の側を離れてスマホを手に取る。その表示を見て、生田のことを思い出した。まだ、なんの連絡もいれていなかった。

「もしもし、生田ごめんっ!」

開口一番、声をくぐもらせながら謝罪した。

(今日はおまえが来るからって、いつもより早めに仕事を切り上げたんだけど帰ってもいないからさ。飲み会、長引いてんのか? 何時になりそうだ? なんなら途中まで迎えに――)

時計を見れば、23:30を過ぎたところだった。この時間に家に着いたというのなら、それだけ生田は無理をしてくれたということだ。

「ごめん。実は、今、希がうちに来てて――」

すぐ後ろには希がいる。あまり詳しく話せるような状況でもない。キッチンの方へと場所を移して、会話を続けた。

「詳しいことはまた明日話すけど、今日は希のそばにいてあげたいの。だから、今日はそっちに行けない。本当に、ごめん」

ほんの一瞬。本当にわずかな間のあと、すぐに生田は言葉を発した。

(そうか。飯塚がいるなら仕方ねーな)

「ホントに、ごめん」

(いいよ。飯塚に何かあったんだろ? そこにいるなら、確かにあまり話せないだろう。じゃあ、切るな)

「生田――っ」

生田の声が切ないほどに優しくて、逆にその優しさに胸がひりつく。だって、その声があまりに何かを耐えているようなものに聞こえたから。