「希、うちに行こう。田崎さん、迎えに来てくれるって言ってくれたよ」
そう優しく告げると、何度も頷いた。
希は一人で歩くのも難しい状況だったので、電車ではなくタクシーで帰ることにした。フラフラとする希をなんとかタクシーに押し込み、家へと向かう。
タクシーの中で、飲み会の後生田の家にいくことになっていたことを思い出した。田崎さんが、何時に迎えてに来てくれるか次第だけれど――。その時間で判断しよう。行こうと思えば、電車がなくてもタクシーで行ける。
私の肩にもたれる希の顔を見つめる。目を閉じたまぶたから一粒の涙が流れる。希をこんなにも悲しませている田崎さんに、怒りを覚える。
一体、希が何をしたっていうの――?
タクシーの窓に肘をつき、流れる車窓を見やった。
「希、ここで、とりあえず休もう」
なんとか肩を抱いて私の部屋まで担いできた。そして、ベッドに座らせると、希はそのまま後ろに倒れ眠りこんでしまった。そのベッドの淵に腰掛け、希の顔にそっと触れる。
「こんなに目の下にクマを作って……」
眠れていないのだとすぐにわかる。こんなに苦しむまで何も言わないなんて。希の頬に、乾いた涙の跡が筋になって残っていた。部屋の真ん中にある壁掛け時計を見る。
23:00――。
田崎さん、そろそろ私のマンションの最寄り駅についてもいい頃のはずなんだけど……。私はカーテンを少しだけ開けて、外の様子をうかがう。そしてスマホのディスプレイをまた見つめた。いつもの待ち受け画面が表示されているだけだった。
遅いな……。
とりあえず、生田に連絡しておこうか。この時間ならまだ仕事をしている可能性が高い。メールを送っておこうと、メールの送信画面を表示したと同時に田崎さんの着信がディスプレイに表示された。
「もしもし!」
(遅くなってごめんね、今、内野さんのマンションの最寄り駅に着いたよ)
そこから電話で私のマンションへと誘導した。部屋の番号を告げておいたから、少ししてインターホンが鳴った。



