「だったら、こんなとこで、こんなことっ」
「もう限界。俺、おまえに触れてないとだめになったみたい」
「ちょ、ちょっと!」
腕に閉じ込められていたのに、気付けば私の首筋に生田の顔が埋められて唇の感触を感じた。
「やっ……」
「だから、そんな声、出すな」
「で、でもっ」
なら、やめてくれればいいのに。私だって、こんな風に触れられたら、我慢できなくなるじゃない。
「あ……、せっかく付けた跡、もう消えてる」
いつの間にボタン……。
「も、もう付けないで、恥ずかしい――」
「ダメだ。おまえの隣の席の男に牽制しなきゃならないから」
「え? 隣――、あ」
せっかく消えたのに、また――。
「はあっ」
私の胸元を強く吸った後、私の肩を掴んで、生田が項垂れた。
「本当は、おまえを俺の家に連れて帰りたい。一日のうち少しでいいから二人だけの時間がほしい」
生田は、いつも澄ました顔で仕事をこなして、人への当たりは無愛想で。でも、私の前では、ただの駄々っ子みたいに見える時がある。
「だから、これ、受け取れ」
「なに?」
生田がスーツのポケットから何かを出した。私の手のひらに触れて、その上に一つの鍵を置いた。
「これ……」
「俺のマンションの鍵。いつでもおまえが来たくなったときに来られるように」
「生田……」
私はその手のひらの上のものをまじまじと見つめる。
「いつでもってことは、平日でもってことだ。例えどんなに帰りが遅くなっても俺の部屋で待っていてくれれば会える。一緒に眠りにつける。だから、いつでも」
「ありがとう」
嬉しくて。合鍵なんてもらったことなくて。本当に嬉しい。
「ああ。『おまえが来たい時に』と、カッコつけて言ってみたけど、俺の真意は『出来るだけ来てくれ』ってことだからな」
そう言って生田が私の頭を撫でた。
「――悪い。この後、課長に説明しなきゃならない案件があったんだ。俺、先行く。じゃあな」
すらりとしたの背中を見送る。その後ろ姿を見ただけで、この胸は騒ぐ。本当は抱き付いてしまいたいくらいに恋しい。



