(1月下旬に同期新年会開催予定。
幹事:桐島、内野
店:未定(おそらく居酒屋『運』)←内野が調整)
という同期全員に送られていたメールとは別に私宛にもメールが来ている。
(みんなが落ち着きそうな1月下旬あたりで日程調整よろしく。場所は『運』でいいと思う。まあ、いつも通りで。 桐島)
はいはい。もう慣れてますからね。
今度は生田は出席しない。そう言っていた。
それに――。『運』での同期の飲み会は、あの日以来。希と田崎さんのことでショックを受けて泣いて逃げ出した日。確かあの時、生田が意味不明なフォローをしてくれたんだっけ。それでも、誰も生田の言うことをそのまま信じなかったというのが笑えるけど……。一人ふふっと笑ってしまう。
それから、同期宛てに、日程調整メールを送信した。
仕事初めの日から、生田の帰りは連日終電コースだった。終電に間に合わない日もあるみたいだ。日中は係長研修に出向き、夕方戻って来てから自分の仕事をしているようで。仕事が深夜に及ぶのも仕方がない。
そのうえ、これまでは基本的に指示されたことをやればよかったのを、係内の調整や係員の仕事の進捗状況、上司とのやり取りから他の機関との折衝まで――。各段に責任とやるべきことが増えている。ちらりとその表情をうかがってみても、疲労が滲んで見えた。きっと、これまでとは違って、単なる拘束時間の長さによる疲れじゃない。
平日もほとんど言葉を交わす暇もない。生田は、休日も、平日に終えられなかった仕事をしていた。年始にあんなにずっと一緒にいたのが遠い昔のようで。
もう何日、生田に触れていないだろう――。
ふっと疲れを感じて、ひとけのない廊下の壁にもたれた。私も私で寝不足が続いてて。新年早々、面倒な仕事が入ってきているから仕事をしている時間以上の疲れを感じている。あー、生田にぎゅっとされたい。触りたいなぁ……。なんて、欲求不満かって。
さて、戻るか――。
「内野」
戻ろうとした矢先、廊下の先からこちらへと歩いてくる生田の姿が視界に入った。
「研修、終わったの?」
「ほんっと、無意味な研修だった。時間ばっかり取りやがって」
同じ庁舎の上階で行われていた研修の帰りのようで、腕にはたくさんの資料や本を持っていた。
「クソみたいな研修のせいで仕事する時間減ってるんだから、バカバカしいにもほどがある」
「相当、気が立ってますね……」
あまりの言いように、思わず笑ってしまった。険しい顔と目の下のクマが、よりその表情をきつくしている。そでれも、不意に生田を近くに感じただけで、身体がぎゅっと締め付けられるような感覚に襲われる。
「当たり前だろ。なんのせいで、おまえに会う時間がなくなってると思ってんだ」
生田の手が素早く私の腕を掴んだかと思うと、引っ張られた。
「な、なに?」
そして、そのまま死角になる廊下の角に連れ込まれた。
「い、生田っ――」
「静かにしろ。ここはあんまり人が通らないとは言え、いつ誰が来るか分からない」
廊下の壁に押し付けられたかと思うと、あっという間にきつく抱きしめられた。資料を持ちながらの抱擁はどこかぎこちないのに、その分だけ生田の焦燥感のようなものを感じていつもより鼓動が激しくなる。



