臆病者で何が悪い!


「こちらこそよろしくお願いします。生田係長」

そう言った田崎さんの言葉で気付く。そうだ、今日から、生田は田崎さんよりも序列的に上になるのだ。そう考えると、キャリア組も結構大変だ。年齢も経験も自分より豊富な職員の上に立っていかなければならないんだから。いくら生田が飄々としているからと言って、これから精神的にも疲れることが多くなるんだろう。

少しでも、助けになってあげられればいいけど――。そう思いながら自分の席に着く。

「内野さん、今年もよろしくね」

隣に座る田崎さんが、私の方に身体をきちんと向けて微笑んでくれた。

「こ、こちらこそ! よろしくお願いします」

先輩に先に挨拶をさせるとは!
私は慌てて頭を下げた。

「今年もまた始まったね。残業続きの日々が……」

「本当ですね」

年末年始で6日間も休んだから、身体がついて行くだろうか。また、一日のほとんどを職場で過ごす日々が始まる――。

「だからこそ、隣の席が内野さんでよかった。よく考えたら一日の大半をこの席で過ごしてるんだもんね。家族よりも恋人よりも、内野さんが一番僕の傍にいるってことだ」

「……え、ええ、まあ」

恋人って。私は希と田崎さんのことを知ってるのに……。なんだか、変な言い方。
あれから、希は田崎さんとちゃんと話せたのだろうか――。田崎さんの顔を見つめてしまっていると、田崎さんの視線が私の胸元あたりに向いているのに気付いた。

「あ、あの……?」

「あ、いや。なんでもない」

いつも落ち着いていて穏やかな田崎さんにしては、すごく慌てたような顔をした。

なんだろう――。そう思って自分のシャツの襟元を見てみる。

ん――!

さっききちんと生田は外したシャツのボタンを留めなおした。だから、今も出勤してきたと同じ、第一ボタンを外しているだけだ。それなのに、ちょうど襟元に見えるか見えないかの際どい場所に、赤紫の跡が見える。

どうして――?