1月4日、仕事初め――。
「本年も、よろしくお願いします」
出勤すると、既に生田は席にいた。
「こちらこそ、よろしく」
前の晩までひと時も離れずに触れ合っていたことは、おくびにも出さない。
「早いですね。生田係長」
「――おい」
「なんでしょう、生田係長」
自分の席に座っていた生田が立ち上がり、私へと近付いて来た。
「その、しらじらしい敬語やめてくれない?」
「え? でも、今日から私より目上の人になるわけですし」
わざと言っておちょくってるんです。
「だいたいさ。係長になったからっていちいち”係長”なんてつけなくていいんだよ」
「だって、言いたいんだもん。”生田係長”。うん。なんかいい」
一人ニヤニヤとしてしまう。オフィスラブの小説の読み過ぎだろうか。私は特に、上司と部下の秘密の恋の話が好きだ。職場ではお堅い上司が、二人きりの時にだけ見せる甘い顔。あのドキドキ感がたまらないじゃない。
「なにを一人でニヤニヤしてんだよ」
「な、なんでもないです、生田係長」
面白がっていると、生田がちらりと壁の時計に目をやった。
「……他の人が出勤してくるまでにあと五分はあるな」
「なに? 何か言った?」
ぼそぼそとひとり言を零して、生田が私を見た。その表情は、危険な表情だ。妖しい笑顔を浮かべている。
「な、何か――」
「内野、こっちに来いよ」
「は……?」
生田のお仕事モードのスーツ姿がやけに艶めいて見える。綺麗な色の濃紺のスーツは、よく見ると細かいストライプが入っていて、まっさらな白いシャツに生える同系色の紺色のネクタイ。そのモノトーンのスタイルが、やばいほどにカッコいい。
「上司の言うことが、聞けないのか?」
え――?
一体、何が始まったの――?



