「……ん」
明るいな。まぶたの裏に光を感じて、目を開ける。カーテンが半分だけ開かれていた。ふと隣を見ると、寝ているはずの生田がいない。
生田、どこ――?
部屋の中を見回すと、ベッドの淵にもたれて座っている生田の頭が見えた。
「何して――」
寝起きのまだはっきりしない視界をクリアにすべく目を擦り、もう一度その後姿を確認する。
そ、それ――!
「いく、た……って、何してんの!」
自分が、肌に何もまとっていないのも忘れてベッドから飛び起きた。
「勝手に、読まないでっ!」
「あ、沙都、起きた――」
こちらに振り返る隙に、生田の手にあった本を奪い取った。
「なんだよ、あぶねーな」
生田が勝手に読んでいたのは、私の愛読書「冷酷上司は私だけの王子様」だ。
こてこての甘々の、干からびた働く女子を甘い妄想の世界へといざなってくれるうるおい補給書なのだ。男の現実や男の視点でなんかまったく書かれていない。
私の秘密の園に土足で踏み込んでくるようなことをして――!
「何で勝手に読んだの? 前にもダメだって言ったよね?」
私の形相に唖然としているのか、生田が驚いたように私を見上げた。
「そんなに怒るようなことか? 自分の彼女がどんなものが好きなのか知りたいだろ。まだ読み途中だったんだ。返してくれ」
「返してくれ? 何を言ってるの? 私の話、聞いてた?」
まったく話の通じない生田に怒りを覚える。
「私の超プライベートエリアなんだからそっとしておいて――」
「そんなことよりさ。おまえ、今自分がどんな姿してんのか気付いてる?」
「え?」
恥ずかしさと怒りのあまり奪い取った小説を背中に隠すことに必死だった。
おそるおそる視線を下に向ける。
きゃ、きゃー!
「み、見ないでっ!」
小説隠して胸隠さず。
そんなことわざあったっけ?
それどころじゃない。とんでもない姿を晒していた。私は乱暴に布団を捲り上げ、その中に逃げ込んだ。



