「沙都、何かあった……?」
激しさの余韻に包まれながら、抱き合った後に生田の腕中にいた。
「ううん。何も……」
何もない、と言うには無理があるかな。でも、本当に何もない。生田がしたことなんて何もないんだから。
「そうとは思えねーけど。おまえが、あんなこと言うなんて……」
――めちゃくちゃにして。
冷静になればなるほど恐ろしいワードを言ったもんだと、我ながらいたたまれないけれど。でも、あの時は確かにそう言わずにはいられなかった。
「ごめんっ。そのことは、もう蒸し返さないで。恥ずかしすぎるから……」
生田に顔を見られたくなくて、その胸に逃げ込む。骨ばった生田の手のひらが私の髪を優しく梳く。
「恥ずかしいなんて思う必要ないよ。ただ、何かあるんだったら、何でも俺に言ってほしいだけだ」
暗闇の中、私の部屋にはいまだ濃密な空気が漂っていた。心は落ち着きつつあるのに、その空気がさっきまでの行為を知らしめるみたいで落ち着かない。
「うん。分かってる。でも、本当に何もない」
頑張らないと――。自分のを過去を棚にあげて、生田に過去のことなんかで気まずい思いをさせられない。困らせたりしたくない。
私は生田のこと、何も知らないんだ――。どんな恋をしてきたのか、どんな人を好きになって来たのか。どうやってその恋は終わったのか――。
苦しい。考えれば考えるほど苦しいけれど、それでもその苦しみには打ち勝たなければ生田の傍にはいられないから。
「……辛い時は、誰より先に俺に言えよ……?」
髪を梳いていた生田の指が私の顎にかかる。そして上を向かされた先に、生田の真剣な目があった。
「分かった?」
「うん」
――俺の知らないところで一人悩んだりするな。
「それを忘れるな」
念を押すようにそう言うと、生田が目を閉じた。



