臆病者で何が悪い!



その後、約束通り身体を解放してもらい、私が作った料理を食べた。

『美味い。おまえだって十分料理上手だよ』

そう言って何度も褒めてくれた。
二人で囲む食卓は、その味の何倍も美味しく感じさせてくれる。
一緒にビールを飲んで、笑って、たくさん話をして。

二人で過ごすだけで、そのどれもが楽しい――。のに。



「――んっ」

その夜の生田は、激しくて、それでいてどこか切なげだった。

「……どうした?」

「もう……、むり……っ」

絶え間なく与えられる熱に、身体が悲鳴を上げている。こんなに激しくされているのに、怖いほどの快感が襲って来て我を忘れてしまいそうになる。どんな恥じらいもためらいも、すべて放棄して快楽の波に溺れてしまいたくなる。

「やめろって、こと……? ダメだ。やめない。もっと……。もっと見たい。俺で感じてるところ」
背中にぴったりと重ね合わせられた生田の胸の鼓動が伝わる。耳もとにかかる生田の乱れた吐息も、うしろから回されたその大きな手のひらも、忙しなく私を追い詰めていく。

「こっち、見て――」

その手のひらが私の顔を掴み後ろへと向きを変えさせて――。すぐに生田の顔が覆いかぶさって来た。唇から与えられる快感と生田の指から与えられる快感とで、もうどうにかなりそう。

「ねぇ、おかしく、なる……っ」

角度を変えようとして唇が離れたすきに、耐えられなくなって声を漏らした。

「なれよ。おかしくなって。俺のことしか考えられないようになれよ」

「あ……っ」

その時に、一気に身体を熱いもので貫かれた。

「……頼むから、俺でいっぱいになって――」

押し広げられる快感に、気が遠くなる。鼓膜にベールでも掛けられたように、音にもやがかかって。ただ与えられる熱で何も考えられなくなる。

「俺のものに――っ」

さらわれてしまわないように生田の背中にしがみつく。何かが迫上がって来るほどに、その背中を強く掴む。こうして一つになって、生田の声がちゃんと私の耳に届くのに。息遣いも、汗も、肌の温もりも、この瞬間私だけのものなのに――。

「好きだ……っ」

生田から吐き出された掠れた声で、フラッシュバックのようにあの写真が頭にちらつく。

『スキダ』

その言葉が鍵になって、負の感情の詰まった箱を開ける。

そんな風に熱に浮かされたように、彼女にも言ったの――?

今、そんなこと考えたくないのに。こんな風にキスをして、触れ合って、一つになって。そんな甘くて切ない表情を、見せたの――?

「……いやっ」

何度も頭を振る。あの顔の残像が消えるように。こうして頭を振れば消えてくれるはず。目の前の身体を強く強く、食い込んでしまいそうなほどの力で掴む。

「沙、都……?」

額から流れる汗が、私へと落ちて。その時見上げた顔は、不安げに歪められていた。

「ど、した……? 酷く、したか……?」

違うの。違う――。私はもう一度激しく頭を振って、生田の腕にしがみついた。

「もっと……もっと、して。何も考えられないように、もっと、めちゃくちゃにして」

私、そんな言葉言えちゃうんだ――。

心の中は必死で。ただ、逃げ惑うように必死だった。

今を感じたい。今傍にいるのは私なんだから。あの人じゃない――。

「沙、都」

明日からは考えないようにするから。だから今は――。私の身体に刻み込んで。不安に打ち勝つための、あなたの熱を身体に残して。