臆病者で何が悪い!


「あっ……。今、物音し出したね。みんな起きて来たかな。ちょっと、様子見て来る。私が勝手に沙都さんのところに忍び込んだってばれたら、あいつ絶対騒ぐよね。まあ、騒いだところで絞めるだけだけど」

発言とは似ても似つかないキュートな笑顔を見せて部屋を出て行った。

一人になった部屋で、なにげなく残されていたアルバムをぱらぱらと捲る。このあたりは、生田が大学生の頃だろうか。途端に写真の枚数が減り出した。これも、嫌々写っているのが一目瞭然。帰省した時にでもご家族と撮ったものだろうか。写真が少ないのも納得だ。大学からは家族と離れて暮らしていたんだし。生田が、好き好んで誰かと写真を撮っているイメージなんかないしな……。

そんなことを思いながらアルバムを閉じて、何冊かあるアルバムを揃えようとした時、一枚の写真がアルバムの間から落ちて来た。剥がれちゃったのかな……。その写真を手にしてみると、そこには今より少し若い生田と知らない女性が写っていた。

誰……?

その二人は、どこかのテーブルを間に向かいあって微笑みあっている。生田も、その女性に微笑みかけていた。
いつも、私に見せてくれるのと同じ、優しい微笑み――。

その時気付いた。生田が私以外の誰かに微笑みかけているのを見たことがなかったということを。写真の端をつまんでいた指から力が抜けて、胸を刺す痛みとともに手から落ちた。

「沙都さんっ、みんなそろそろこっちに下りてくるみたい!」

突然戻って来たお姉さんの声に、我に返る。

「あ、そうですか」

慌ててその写真をアルバムに挟み込み、閉じておく。

「写真見せたこと、眞には内緒ね? うるさいからさ」

「了解です」

人差し指を口元にあててお姉さんが言う。私は、取り繕うように笑顔を貼り付けた。

「じゃあ、これ、持ってくね。後で、こっそりもとに戻しとこ。これでも、姉は弟の顔色うかがってんのよ」

そう言ってお姉さんはアルバムを抱えて部屋を出て行った。