その夜は、初めての場所ということと相まって、なかなか寝付けずにいた。
意味もなく寝返りばかりしていた。
――トントン。
「……ん」
――トントン。
なんだろ。
「沙都さん、起きてる?」
この声は、お姉さま!
ふすまの向こうから聞こえる声をやっと頭の中で認識することができ、慌てて飛び起きた。結局眠りに落ちて、朝が来たようだ。
「は、はいっ! 起きてます!」
あたふたと布団から這い出て、髪の毛を撫でる。
「ごめんね、朝から。でも、眞が起きて来る前にと思って……」
そっと開けられたふすまのむこうから、まだパジャマ姿のお姉さまが現れた。昨日と違って、おそらくすっぴん。だからだろうか、ずっと幼く見えた。
「いえ!」
何かを腕に抱えたお姉さんが遠慮がちに部屋へと入ると、後ろ手でふすまを閉めていた。無意識のうちに正座すると、その正面にお姉さん座り込んだ。
「昨日、たぶん、いろいろ恥ずかしいところ見せたよね? なんとなくは覚えているだけど、飲んだくれた後は気付いたらベッドにいて。初めて顔を合わせたのに、ホント、私ダメだ」
寝起きだからなのか、お姉さまの長い髪は無造作にかき上げられていて、それはそれでまた雰囲気がある。結局、また見惚れてしまった。
「いえ。私の方こそ、初めてなのに差し出がましいことをしたかと――」
「ううん、そんなことないよ。本当だったらきっと、昨日は眠ることも難しかったと思う。でも、こうして朝まで寝られたんだから。沙都さんが一緒に飲んでくれたからだよ」
そう言って、お姉さまは優しく微笑んだ。
「だから、そのお礼にと思って、今、眞の部屋に忍び込んでいろいろ持って来た。眞のこといろいろ知りたいでしょ?」
にっこりとした表情で、私の目の前に何かを広げ始めた。それは、アルバムだろうか?
「子供の頃の写真とか? 見たいです!」
「だよね? どうせ直接頼んでも、『別に見せるようなものでもない』とかって言ってかわされそうだもんね」
お姉さんの生田のモノマネが思いのほか上手で、笑ってしまった。ワクワクとした気持ちで、お姉さんと表紙を捲る。少し色褪せたアルバムから、それは生田の幼少時代のものだと分かった。



