臆病者で何が悪い!


「……起きてるか?」

「い、生田っ?」

リビングダイニングはもう灯りは消されている。ふすまの向こうから生田の声がした。

「起きてるけど」

そう言うと、生田がこの部屋に入って来た。

「……やっと、二人きりになれた」

そう言うとすぐに私の身体を腕に閉じ込めた。

「お父様とお母様は……?」

「もう寝たよ」

生田が腰を下ろしたので私もその隣に座った。

「今日は、疲れただろ? 騒がしくて」

隣に座る生田が、私の髪に触れる。

「ううん。思っていたよりも親しみやすい方たちで、ありがたかった」

「だから言っただろ? 緊張するような人間たちじゃないって」

ふふっと笑い合う。

「俺以外の三人が三人ともあんな感じでよく喋るから、自然と俺は喋らなくなってた。喋る気にもならねーよ」

「なるほどね。そうやって、無愛想な生田がうまれたわけか」

今まで知らなかった部分をこうして見られたのは、なんだか嬉しい。職場での生田しか見て来なかったのが、次はプライベートの生田を知って。そしてこうして生まれ育った場所も知ることが出来た。少しずつ少しずつ、私の中で生田という人間が近くなっていく。

「――姉貴のこと。ありがとな」

「それ、お母様にも言われたよ? 私は何もしてないよ。ただ傍にいてお酒飲んでただけだもん」

そう言う私の手に、生田が手のひらを重ねて来た。

「お姉さん、どうなるのかな。本当に離婚しちゃうのかな……」

「……まあ、今日聞いた限りだと、元に戻るのは難しいだろうな」

期待に反する、あまりに冷静で正しいと思われる言葉を聞いて、誰に対してなのか分からない怒りを感じた。

「どうして……」

「……え?」

「どうして、そんなに簡単なの? それじゃあ、なんのための結婚?」

私にとって”結婚”の二文字は、遥か遠い世界にあるもので、決して手の届かないものだと思っていた。
だからこそ、それを手に入れたなら確かなものが得られるんだって。そうであってほしかった。結婚でさえそんな曖昧なものなら、恋愛なんてあまりに刹那なものだ。