「わーっ」
「えっ……?」
突然、お姉さまが私に飛び掛かって来た――。と思ったら、私の首に腕を回し身体を投げ出して来たのだ。そして私の胸で泣きまくっている。私より年上なのに。本当はきっと、可愛い人なんだ。生意気にもそんな勝手なことを思ってしまった。
「せっかく来てくれたのに、なんだか、ごめんなさいね」
お母様が私にそっと耳打ちする。
「いえ。私の方こそ、お姉さんが大変な時にお邪魔しちゃって……」
「いいんだよ。誰も俺に言わなかったんだから。知る由もない」
生田とお母様とでこそこそと喋っていると、すぐさまお姉さまから声が飛んで来た。
「沙都さんっ! 飲もっ! 飲もう飲もう! オールナイトだー」
「は、はいっ! 今行きます!」
リビングの横にあった畳敷きの部屋に、既に一升瓶を持ったお姉さまが私を呼ぶ。
「……ったく。初対面だって言うのに、あの女は……」
生田が呆れたように溜息をつく。
「お酒のせいだよ。酔ったら人間、いつもならしないようなことをしちゃったりするもん」
私にだって、覚えはある。
「少しでも、元気づけてあげたい。それがただその一瞬だけでも。一緒にお酒飲んだからって何かが解決するわけじゃないけど。でも一瞬でも気が紛れるならそれでいい」
「ホントにおまえは、世話好きだな。ああいうの見ると放っておけないんだろ……」
ふっと息を吐くと、生田が私を見て呆れたように微笑んだ。
「沙都さーん! 沙都チャン。沙都っち。なんて呼べばいいー?」
片手にグラス、片手に一升瓶。お姉さんがそれらを持って両手を上げている。
「どれでも、いいですよ! じゃあ、私、行って来る」
「はぁっ。ったく。俺も行くよ」
「え? いいの?」
生田はさっき、思い切り嫌がっていたはずだ。
「おまえ一人に任せるわけないだろ? それに、なんでここまで一緒に来て、おまえの傍にいないなんて選択肢があるんだ」
「え? あ、う、うん……」
不意に生田の唇が耳元に近付く。突然甘い声にならないで――!



