「今、敦さんとは離婚協議中なのよ……」

お母様が憐れむようにそう呟いた。敦さんというのは、お姉さまの旦那様だろうか。

「そんな話、聞いてねーよ」

「だって、言ってないもの」

生田も困ったようにお姉さんを見下ろしていた。

「それにしたって、泣くことねーだろ。あんなになるまで酒飲ませるなよ。ただでさえ、酒癖悪いんだから」

お姉さん、さっきからもくもくと酒を飲んでいたのはそういう理由からだったのか。
震える肩が、とても頼りなさげに見えて。痛々しくて。こんなにも美しい人でも、泣いたり傷付いたりすることがある……。少し考えれば当然のことを、改めて知った気がした。

「お姉さん……」

なんと言葉をかけてよいのか分からない。それもそうだ。家族の皆さんですら、口を噤んでいる。

「完全に泥酔してんな。部屋に寝かせた方がいいんじゃねーの?」

お姉さん、一体どれくらい飲んだのだろう。飲まなきゃやってられない日もある。きっと、そんな日だったのだろう。

「お姉さん、まだ、飲み足りないですか?」

「……え?」

私がお姉さまにそう声を掛けると、のろりとその顔を上げて私を見つめて来た。

「お、おい。そんな余計なことを――」

「でも! ご自宅にいるんだし、酔いつぶれたらすぐに寝られる。それに一人じゃない。飲みたいんだったら、飲みましょう。一人の酒は辛いけど、私も、眞さんも、とことん付き合います!」

生田の声を遮るように私はそう言っていた。

「おまえ、何を勝手なことを――」

「眞さんが嫌なら、私が責任をもって最後までお供しますよ。飲みたい夜がありますよ。泣きたい夜もあります。私、そういう夜ならエキスパートみたいなものなので! 一人悔し泣きをしてきた夜の数なら誰にも負けません!」

胸を叩きながらきっぱりという。まあ、自慢するようなことじゃないけど。