この日は課の忘年会が行われた。
職場近くの座敷のあるちょっとした料亭のようなところ。
それでも、高級という感じではなく値段も手ごろな公務員にはありがたい場所らしい。
「内野さーん、ビールビール」
大きめの広間に、二列に並んだ席。
俺は真ん中あたりの席に座らされた。そして――。
「はいはーい! 少しお待ちを!」
相変わらずのあいつは、最初は俺とは別の列の一番端に座っていたが、今やもう自分の席にはいない。あちらこちらへと駆けずり回っている。
同期の飲み会とまったく同じ状況なのだと、沙都と同じ課になって知った。
ああいう性分なのか、周りも頼りやすいのか。まあ、その両方だろう。
「お待たせいたしました。どうぞどうぞ、補佐、ぐいっと行ってください!」
ビールを運ぶのでは飽き足らず、掛け声まで掛けている。
「内野さん、おしぼり追加で頼んでおいて!」
次は、別の場所から声が上がっていた。
「はーい」
内野より若い職員がもう一人いる。それが女子職員だからなのか知らないが、そいつはどうした。
そう思って周りを見渡すと……。
そうだったそうだった。そこにあったのは飲み会の時のいつもの光景だ。
「菊池さん、もう慣れた?」
「はぁい。先輩方のおかげでもう慣れました。本当にありがたいです」
「そう? 君が頑張ってるからだよ~」
中堅どころの独身男たちが彼女の周りに腰を下ろしていた。
俺にはその良さはいまいちよくわからないが、彼女のことを噂していたのを聞いたことがある。
――菊池さん、読モって言うの? あれ、女子大生時代にやってたらしいんだ。あのルックスなら公務員なんかにならなくても大手企業の華やかOLにでもなれたよなぁ。
――それ、分かる。あんな職員がうちの課に配属されたんだ。それだけでもラッキーだな。
――派遣の宮前さんも綺麗だし。いつもクソみたいな激務しかない俺たちにとっては一つの清涼剤だ。
もちろん、内野の名前が挙がることはない。
俺にとってはいいことだ。
おまえらは、菊池さんでも宮前さんでも見てればいい。



