ここは東京の中でも有数のオフィス街だ。12時を過ぎると道路はビジネスマンで溢れかえっている。比較的穴場で、希とよく来るイタリアンのお店に入ることにした。

「それにしても、田崎さん。沙都のことかなり気に入ってるよね? よかったねぇ」

希が顔を突き出すように私をじっと見つめてくるから慌てて手を振った。

「まさか。田崎さんは誰にでも優しいもん。それを特別だなんて、そんな自惚れ私がするわけないでしょ。私は、ちゃんと自分をわきまえてますー」

ニヤニヤとした希の顔が、なんとなくいたたまれない。

「でも、好きなんでしょ?」

希の大きな目が私を逃がさない。

「好きって、別に、そういう好きじゃなくて、憧れ。ただの憧れだよ。ほら、アイドルみたいな? 現実的な対象とはしないけど、ときめきを楽しませてもらえる存在? そんな感じ」

なんか、私、早口になってる。

「怪しいなぁ……。沙都、目が泳いでますよ」

さっきの意味不明な『ドキン』については、深く考えないことにする。
これは恋じゃない。憧れなんだから。アイドルにきゃあきゃあ騒いで楽しむ。それだ。

「あんな素敵な人が隣の席にいてくれるんだよ? それ以上、何を望むのよ。私にとって、アイドルみたいな人だよ。そういう意味では大好き!」

「ふーん」

「そうだよ」

ああいう人に恋なんてするわけない。そんな大それたこと、不毛だと分かり切っていることをしたりなんて、私はもうしない。