希と一緒にいる時、希との違いを、ある時は視線で、ある時は言葉で指摘されてきた。

女らしくて綺麗で優しい希。かたや、地味な顔をして口ばかりが先に出てしまう私。これまで一度も、希と似ているなんて、どこか一部分だって言われたことはない。

こんな女子の中の最高峰みたいな子と似ていると、田崎さんが言う。

それは、田崎さんが少しは私のことを女として扱ってくれているってことだろうか。にっこりと微笑む田崎さんから、思わず視線を逸らしてしまう。そんなことを言われて自然と態度まで女らしくしちゃうのは、私もやっぱり女なんだ。急に恥じらう乙女の気持ちになってしまう。

「私と沙都、似てるんだね。だからやっぱり気が合うんだよ」

嬉しそうに言葉をかけて来る希が微笑む。

「……じゃあ、またね。飯塚さん」

「はい!」

爽やかスマイルを残してその場を立ち去った田崎さんの背中を、思わず見つめてしまった。

「――ちょっと。ここ通路なんだけど。いつまでもぼけっとつっ立ってないでくれ」

「え? あ、ああ、すみません!」

今後いつあるとも分からない喜びに浸っていると、ただただ冷静なだけの声が背後から聞こえた。

「――って、生田か……」

振り返ると、生田が心底迷惑そうな顔をしてそこに立っている。

「生田君、昨日はお疲れ」

「飯塚も、いつもいつも他の課の執務室にまで入って来るなよ」

希はただ声を掛に来ただけなのに、生田は希の笑顔にお構いなくそんなことを言った。

「ちょっと、そんな言い方しなくても――」

「いいの、いいの。今度から部屋の外で待ってるよ」

私が生田に反論しようとしたら、希の大人な発言で遮られた。希はまったく気分を害した様子もなく、私をなだめる。
仕方なく、ここは引いておくことにする。

昼休みに顔出すくらい、別にいいじゃない――と心の中では悪態をついてしまったから、多分この表情にはそのまま出ているんだろうけど。ついじっと生田を睨みつけてしまいそうになる。
でも、当の生田はさっきから表情が動くことはなくて。誰が相手だろうと、どんな状況だろうと、生田のあの表情が変わることはたぶん無いんだろう。どこか飄々としていて、掴みどころもない。

「通行妨害をしてしまい、すみませんでした」

棒読みでそう言うと、生田はそれ以上何も言わずにすたすたと執務室を出て行った。

「さあ、沙都、時間なくなっちゃう。お昼行こう」

「そうだね」

生田の憎まれ口も特に気にならないのか、希は笑顔のままだった。