課長の決裁が終わった書類を局長付のところへ届けて戻って来た時に、ちょうど昼休みになった。

今日のお昼、何にしよう……。そんなことを考え始めていると、聞き慣れた声が耳に届く。

「沙都、ランチ行かない?」

振り向いてみると、品の良い笑顔をした希が立っていた。

「ちょうど、今何食べようかなって思ってたとこ」

「なら良かった」

同期の女子二人でそう言い合っているところに、田崎さんが通りがかった。

「内野さん、決裁文書届けてくれてありがと。お疲れ様」

「いえ。仕事ですから」

にっこりと、私の中ではこれ以上は無理という笑顔を向ける。こういうささいなことに感謝してくれるところも、田崎さんの細やかなところ。先輩だからと言って、決して横柄な態度なんて取らない。

「これからお昼?」

「はい。今日は、同期と」

そう言って希に目を向けると、田崎さんの柔らかな笑顔が希へと移動する。

「飯塚さんだよね」

「頻繁に沙都に会うためここに来るから、いいかげん覚えちゃいますよね」

希がそう言ってはにかむと、田崎さんの優しい声が私たちを包み込んだ。

「そうだね。顔を合わせているだけなのに、飯塚さんとは知り合いのような気でいる。それにしても、本当に二人は仲がいいよね」

「はい。性格や見た目は正反対なんですけど、気が合うんです」

隣に立つ希は、シンプルな服装なんだけれど彼女が着るとそれはとてもお洒落なものに見えて。特別着飾らなくても素の希の綺麗さを存分に発揮している。
そういう私は、これでも大学生の時よりは服装には気を使っている。
いくら女には見られないからと言って、服装にまで無頓着になってしまったらおしまいだ。気合を入れ過ぎない程度の、ナチュラルボブのヘアスタイル。服装も清潔感を失わないようにして。それでも、こうして希と並ぶと完全に違う人種だ。

「そうかな? 僕から見たら、二人はなんとなく似ている気がするけど?」

「え……っ?」

その発言に、つい田崎さんの顔を真顔で見つめてしまった。

「私と、希とがですか?」

聞き間違いではないかと、もう一度聞き直す。

「うん。なんとなく、雰囲気とか似てる」

まさか――。不意に、胸に激しい鼓動が起こる。ドキドキと、息苦しいような感覚が。