その夜、結局家に着いた時には、日付をまたいでいた。
あー、疲れた――。
酔いつぶれた同期の世話をしつつ、お酒のオーダーを合間合間にして、意味不明につっかかってくる人と面白おかしくやり取りして……。
うん。我ながら、頑張ったな。
さっとシャワーを浴びて、適当に顔に化粧水をつけてすぐさまベッドにもぐりこむ。
眠い。疲れたし、眠いんだけど、これをせずには眠れない――。
お気に入りにの恋愛小説を開く。
「これこれ。続き、気になってたんだー」
寝る前に読むのが、私の、唯一の癒し。飲み会がストレス発散なら、小説を読むのは癒しだ。
決まって読むのは、もちろん恋愛もの。
それも、私が好きなお話のパターンは、
――目立たない地味で損な役回りをしてしまう女の子を、人気者のイケメンが好きなってくれる。
というもの。
完全に現実にないものを架空の世界に求めてるよね……。
現実はなかなかそうは行かない。だから、そういうお話を読むとワクワクして、ドキドキしてまるで自分も誰かに特別扱いしてもらえているような気がして。
そう、小説を通して疑似体験しているのだ。
――そんなに頑張らなくていいんだ。オレから見れば、おまえが一番可愛いよ。
くーっ! 最高。
超イケメンが数多のキラキラ女子をすり抜けて、私を見つめてくれる。
たまらない。
一人、深夜にベッドの上でで足をばたつかせる。
でも、それは本当に夢の世界のこと。夢だけなら、いくらでも溺れていいよね。
――おまえが、好きだ。
甘い気持ちと、ちくりと刺さる痛み。小さな糸口のように過去を掘り起こしそうになって、慌てて目を閉じる。
大丈夫。架空の世界は、私を傷付けたりしないから。
もう一度目を開いて、そしてまた閉じた。



