ある日の夜。
蒸し暑い熱帯夜。
時刻は既に、午後10時を回っていた。
人通りの多い交差点に、1人の男が歩いていた。
彼は斜め上を向き、何か考えるようなしぐさをしたのち、前方に視線を動かし、何かを企んでいるかのように口角を吊り上げ、不敵に薄笑いを浮かべた。
彼の表情を見た周囲にいた通行人が、自然に彼から距離を置く。

「ぐっ…」
突然、彼の下半身は動かなくなり、彼はどっと道路に倒れこんだ。
そして、彼の体はプルプルと痙攣し始めた。
「おい!人が倒れたぞ!それに、けいれんしてるぞ!」
近くにいた男が、叫び声を上げた。
周囲がざわめく。
「救急車よ!110番!」
甲高い女の声が響いた時、彼は胸を押さえ、道路をのたうち回った。
「おい、誰か心臓マッサージと人工呼吸だ!」
「AEDを持ってこい!」
何人かの男たちが、緊張のあまり汗だくになりながら胸骨圧迫を始めた。
彼が倒れた後、10分程が経った頃、救急車のサイレンが、夏の夜空を引き裂くように鳴り響いた。
救急車から転がり落ちるようにして、彼に駆け寄った救急救命士は、すぐに応急処置を施そうとしたが、

彼はもう既に、息を引き取っていた。