不埒な専務はおねだーりん


「私が篤典さんのおねだりを断るはずないじゃないですかぁ……」

「知っているよ」

篤典さんが集まった野次馬に見せびらかすように、私を抱き上げると拍手が巻き起こる。

「君は僕の女神さ」

……女神なんて大袈裟だ。でも、嬉しいっ!!

「本当は篤典さんから離れたくないです……!!」

篤典さんがいれば、いばらの道も怖くない。

……もっと早くそのことに気が付いていれば、お兄ちゃんなんかの忠告を聞かなくて済んだのに。

「よしよし。僕の可愛いかずさを泣かす悪い奴はどこかな?」

篤典さんから遅れること約5分。

私が篤典さんに抱えられているのを見ると、お兄ちゃんはひどい悪態をついた。

「くっそ!!遅かったか……!!」

松葉杖というハンデを背負ったお兄ちゃんは完全に出遅れていた。

「これからもよろしくな、我が義兄よ」

お兄ちゃんは篤典さんの握手を振り払うと、ぎりぎりと歯ぎしりしながら胸倉を掴みあげた。