不埒な専務はおねだーりん


(仕事、探さないとな……)

篤典さんの秘書を辞めたとなると、今日から完全に無職である。

自力で一から探すとなると、またハローワークか求人サイトを漁る日々が続くのである。

(憂鬱だ……)

オフィスエリアから駅へと続く連絡通路をとぼとぼと歩いていた私に、就活の憂鬱を吹き飛ばすほどの衝撃が走ったのはその後のことである。

「かずさ!!待ちなさい!!」

篤典さんの声が聞こえたような気がして後ろを振り返るが誰もいない。

(まさかね……)

恋しさ故の空耳かと思ってそのまま無視すると、今度は怒号が聞こえてきた。

「待てって言ってるだろう!?無視するんじゃない!!」

私は恐る恐る吹き抜けの上の方を見上げた。

篤典さんは宇田川タワーヒルズ自慢のメインエントランスの吹き抜け部分の最上階である5階から、1階にいる私に向けて呼びかけていたのだ。

(なんで追いかけてくるのよっ!!)

こっちは必死で諦めようとしているのに!!

制止を振り切るようにして今度は逃げるように走り出すと、更に言葉が降ってくる。