女の唇は、今まで食べたどのスイーツよりも甘かった。
「美味かった。あっ、急に済まない、あまりに旨そうに見えたから……」
唇を離すと、赤色のペンキで塗り潰したような女に、礼と詫びを述べる。
「ーー恭吾さん、それはどういう意味でしょう」
どうやら、この女、僕の扱いに慣れてきたようだ。
声は上ずっているが、冷静に尋ねる。
「言葉のままだ。君の唇は何より美味かった……そのだな、また、良かったら、味わせて貰えるだろうか」
女が盛大な溜息を付く。
「恭吾さん、確認します。貴方は私のことが好きなのですか?」
「ーー君の作ってくれるスイーツは大好きだ、と自信を持って言える」
「じゃあ、私自身は?」
考えたことも無かったが……。
「ーー分からない。ただ、君が僕にかかわらない、と去った時、胸がチリッと痛んだ」
女がデスクを旋回し、僕の前に立つ。
「どうやら、恭吾さんの胸に侵入することはできたようですね。分からないなら、これからジックリ分からせてあげます」
女がネクタイを引っ張る。その拍子に僕は腰を折る。女の唇が僕の唇を塞ぐ。
「この唇はお気に召したみたいですから」
この女……さっきまでの女と同一人物か?
これはゴマちゃんではなく……そうだ、シャムネコだ。
しなやかな身体を武器に、見る者を虜にさせる……そう、小悪魔のようなような猫だ。