どうやら僕は、あの頃から成長していないようだ……。

職場に戻り、パソコンを立ち上げ、黒い画面が明るく色付くのをボンヤリ見つめ、思う。

やはり僕にはバーチャルな世界が似合っている。
少し甘い物を食べ過ぎた。

最近の行動を反省しつつ、カチャカチャとキーを叩きながら、その心地いい音にしばし心酔する。

『ーー恭吾さん』

ハッと手を止め、顔を上げる。
辺りを見回し自嘲する。

馬鹿か、もう来るわけないのに……。
非常灯に照らされた、薄暗いドアに目を向け、小さく息を吐く。

再びパソコンに向かい、手を動かしていると、「恭吾さん」とまた呼ぶ声が聞こえた。

しつこいぞ、空耳!
声を追い払うように、一心不乱に手を動かす。

「恭吾さん!」

再度呼び掛けられ、気付く。
幻聴ではない。明らかにあの女の声だ。
滅茶苦茶怒っている……そんな声だ。

恐る恐る顔を上げると、案の定、あの女がデスク前で、鬼みたいな顔で仁王立ちしていた。

なっ何の用だ。もう、僕には構わないのでは無かったのか?