それはダメだ! 可哀想だ! と携帯に同情し、気まぐれにも親切心を出してしまった。

「君、それには罪はない。投げ捨てる前に僕に見せなさい」

突然の声に女は驚いたようだったが、意外にも素直な女のようで、促されるまま携帯を差し出した。

なるほど、と電源ボタンを十数秒長押しし、見事カムバック。
これで投げ捨てられずに済んだな、と携帯に声を掛け、「どうぞ」と女に返す。

女はポカンと口を開け、それから徐に、謎めいた言葉と共に礼を述べた。

「ありがとうございます。魔法使いの王子様」

意味不明、理解不能な生き物だ、と思った。
あまりの不可解さに、一瞬、意識がトリップしたが、ハタと思い出す。

こんなことをしている場合ではない!
他人の心配より、我が宝だ!

女が何か言い掛けたが、大急ぎでその場を後にした。



だが、まさか、この小さな親切が、あんな事態を引き寄せるとは……。
その時の僕は、夢にも思っていなかった。