だが、そこから逃れても、オフィスでは、竜崎が小姑のように絡んでくる。

「矢崎課長、貴方、まだ遥香ちゃんを邪見にしているんですって」

邪見?

「あっ、これは百合子ちゃんが言っていたこと。遥香ちゃんは一言も文句を言っていないから、誤解しないでね」

全く! そんなことより、仕事をしろ! と言いたいところだが……。
人一倍仕事ができる竜崎に、それを言ったところで、返り討ちに遭うのは分かっている。

僕は負け戦と分かる戦いには参加しない主義だ。
だからおとなしくお小言を聞く。

「それより、どうしたのかしら? 矢崎課長が少しだけ……ほんの少しだけ、イケメンに見えるのだけど」

『少し』を二度も言わなくても……。
しかし、母も竜崎も……眼科に行った方がいいのでは?

だが、二人だけではなかった。
この現象はその後少しずつ広がりを見せ、『帝NEWS トップ5』に入ってしまった。

メールに届いた帝NEWSを見て、ズッコケた。
余程、新ニュースが無いとみた。
本当、いったい、どうなっているのだ?

『海外事業部の変! 矢崎課長、クールなイケメンに変身!』

おまけに、どんなタイトルだ! 恥ずかしくて社内を歩けない。

「矢崎課長、どんな心境の変化なのだ?」

大野木の肩を抱き、白鳥がニヤニヤと笑いかける。