「――だから、嫁にして下さい」
「……」

二言目には『嫁にして下さい』と言うが、この女、僕に呪文でもかけているつもりだろうか。

だんだん感覚が麻痺し、どうでもよくなってくる。

「あっ! 今、笑いましたよね! 確かに、フッって」

女が僕の顔を覗き込む。

「――止めろ! 笑ってなどいない」

プイッと顔をそらし、コーティングされたフルーツを一つ抓む。
やはり、甘味な誘惑には勝てない。

パイナップル? 口の中にチョコのビターな甘さと黄色い酸味が広がる。
それがキュッと胸を締め付ける。

「どうですか? 美味しいですか?」

少し心配そうな顔で女が訊ねる。

「――ああ、流石『金亀堂』だ。チョコとフルーツの相性が抜群だ」

美味しい、と言えば、この女はまた図に乗る。だから敢えて言わなかった。
それでも女は、僕の返事を肯定と取ったようだ。嬉しそうに微笑む。

その顔を見た瞬間、素直に『美味しい』と言わなかったことが『罪』に思えた。
――やはりあれは呪文で、僕は魔女の呪いにかかったのではないだろうか……。