「否、別に悔しがる必要はない。嫁にしてくれ、とは言われたが……」
「何ですって、それ、プロポーズじゃない! 遥香ちゃんが!」

プロポーズ? そうなのか?

んまぁ! と目を剥く桔梗の眼が……凶器のようだ。
身の危険を感じたので即座に言い放つ。

「だが、断った」

これで納得するだろう、と思ったら……。

「――断った! ですって!」

いきなり、HAPPYタオルをギュッと握り締め、思いっ切りそれで首を締め上げてきた。

「遥香ちゃんの思いを、ゴミ男ごときが、踏みにじったぁぁぁ! お~の~れ~!」

くっ苦しい! お前は何がしたいのだ! もう、訳が分からん!
タップ、タップと桔梗の腕を二回叩く。

桔梗は少し力を緩めると、「遥香ちゃんに、『ごめんなさい』をしてきなさい」ともう一度、ギュッと締め上げ、フンと手を離す。

ケホケホと喉に手を当て、本当に家の連中は凶暴だ、とその場を離れるが、神崎という女のところへは行かず、エレベーターホールに向かう。

今日は厄日か? 『HAPPY』を纏う日ではないのか?

ヤレヤレ、と腕の時計を見る。午後八時四十分。
もうひと仕事しよう、と会社に向かう。