母に聞いたのだが、桔梗をレズビアンに走らせたのは、僕のせいらしい。

ちなみに、僕は頭はいいが、自分にとってマイナスになるような出来事は、全て忘れるようにしている。

「あれは恭吾君が十歳で、桔梗ちゃんが五歳だったわ」

母はその話をする度、遠い目をして涙ぐむ。

「あの頃から、恭吾君って熱中少年でね……」

そして、必ず言い難そうに、「バッチかったの」と悲しげに呟く。

「母親として失格だったわ。ひん剥いてでもお風呂に入れるべきだったわ!」

ションボリしながら「でも、貴方の世界を壊したくなかったの」と両手を組み、祈りのポーズで瞳を煌かせる。

「だって、貴方は天才なんですもの!」

「でもね」と母はまた溜息を一つ零し言う。

「あの日、研究がひと段落着いたのか、久々にお部屋から出てきた貴方は、お腹が減り過ぎて倒れたの……桔梗ちゃんの上に……それが悲劇の始まりだったの」

冬場ならまだ大丈夫だったのだろうが、夏場、三週間近く風呂に入っていない僕に押し倒された五歳の桔梗は、あまりの悪臭に気を失ったそうだ。

それから男性恐怖症となった桔梗は、いい匂いのする女性に走ったのだそうだ。

――という訳で、僕は母から贖罪の意味で、「くれぐれも桔梗ちゃんを邪見にしないでね!」と申し付かっている。