人工の滝が水しぶきを上げ、七色の小さな虹を作っている。

「うわぁ、綺麗!」

行き過ぎる女の声に、そう思うのも当然だ、と歩みを進め、目の端に映る光景に思う。

虹の背景となる、涼しげな滝も、無造作に置かれた大岩も、雑然と植えられた松の大樹も、計算の上、緻密に配置されているのだ、どこから見ても完璧な庭だ。

だからこそ、虹も映える。

ハイグレートと言われるホテルに集まる輩は、多分に癒しや非日常を求め来る。
客に対し、これぐらいのサービスは基本中の基本だろう。

――などと悠長に思っている場合ではなかった。急がねば!
風景を映す天井までの大窓に沿い、約束の場所であるラウンジに向かう。

空港に降り立ち、携帯をONにした途端、掛かってきた電話。それに呼び出されたのだ。

出張から戻ったところだった。それもアメリカから。

今回は榊部長も一緒だった。
彼は、『黒仏(くろぼとけ)』という異名を持つ。

その由来は……普段は仏のように柔和だが、ワーク・スイッチが入ると鬼化し恐ろしい、というところからきているらしい。

僕も仕事の虫なので、普段は、そうか? と気にも止めていなかったが、今回、マンツー・マンの出張で、それがしみじみ分かった。

出張中、彼のスイッチはずっとON状態だった。
故に、流石の僕もメガトン級に体が重い。

――なのに、いったい何の用だ?

仕事の呼び出しなら、致し方ない。
例え寝不足でドロドロに疲れていても、喜んで足を運ぶだろう。

だが、プライベートの、増して、妹の呼び出しとなると話しは別だ。
非常に、億劫であり、苦痛でもある。

――それなのに、何故ここ来たのか?
それは僕の感情以上に、理由は分からないが、妹の怒りが大きかったからだ。