おばちゃんもヘアカタログ(いろんな髪型のイラストが描いてあるものでした。写真ではありません)を持ってきてくれて「これかな?」なんて訊いてくれました。

「違う。…ちょっと違う」なんて首を何度も横に振りながら、自分がしたい髪型を探しました。

何ページもヘアカタログをめくって、よくやく私の動きが止まりました。

「これ…かな?」

おばちゃんが見せてくれるヘアカタログの髪型は、どれも私がしたいヒロインの髪型とは違います。

その中で、やっと近そうな髪型をヘアカタログから見つけて、おばちゃんに教えました。

もう、三十年以上前になるのに妙に覚えているんです。その髪型のイラストも、名前も。

「マッシュルームカットね。よかったね、やりたい髪型がわかって」

……私が目指した、サラサラストレートボブとは違います。

何年か経って、その事に気付きました。

その当時の私は『マッシュルーム』という物も知りませんでした。見てきたヘアカタログの中で、私が目指したヒロインの髪型と、一番それが似ていると思ったのです。

美容師のおばちゃんからすれば、うねうねくせっ毛の私が、まさかサラサラストレートボブを目指しているなんて、夢にも思わなかったのでしょう。

私のできそうな髪型で、私の説明に近いと思われる髪型を、ヘアカタログで見せてくれたのでしょう。

カットをして、おばちゃんのプロの技で私のうねうねくせっ毛を、ふんわりと内巻きにブローしてくれました。

「お家でする時わね、クルクルドライヤーで、こんな風に内巻きになるようにするといいよ」

「?はい…」

当時、我が家にはドライヤーという物はありませんでした。