青年の体が、急にピクンとなり、
手摺を両手で力強く握り、
顔は扉の窓の外に向けたままだが、戸惑った表情をしている。


青年の周囲は、携帯電話を見ていたり 自分の事ばかりで、
青年の異変には気付いていない。

だが、

青年に注目している遥香は、気付いた。



“どうしたのだろう…

何が起こってるのかな… どうなるのかな…”



事態が不明ながらも、
何故か、ドキドキワクワクしはじめる、遥香。




すると、

遥香の視線に気付いたのか、

青年は、瞬時に 遥香へと視線を向けると、
目が合ったことに驚いて、
停車駅で扉が開いたと同時に、
青年は、慌てた感じで 電車から降りた。


“え?、降りる駅なの? …なんだか、そんな感じじゃ…”


遥香は、違和感を感じ、青年のことが気になって、

遥香も 電車を降りた。



閉まる扉を背に、青年が走って行った方へと視線を投げ、姿を探す。


しかし、
青年の姿は、もう見当たらず…




“どうしよう… …ここ、知らない所だ”





もう人のいない、小さな駅。



青年は もう改札口を出て行ってしまったのだろうか…と、遥香は、あてもなく なんとなく、
改札口の方へと歩きだした。




すると、




改札口への途中、御手洗いの前を通った所で、




静けさの中から、一瞬、


男性の吐息が、聞こえてきた。




なまめかしい吐息に、遥香の足が止まる。




“え… … …もしかして…”




遥香は、人気の無い周囲に
初めての 大胆な行動に出る…

吐息が聞こえてきた 男性側御手洗いへと、
入って行った。



男性のなまめかしい吐息が、近くなる。

遥香の鼓動が、速くなる…




吐息が聞こえてくるのは、一番奥の個室だとわかり、
遥香が息を呑むと、
なまめかしいながらも 苦しそうな声に変わった。



“たぶん…さっきの青年だ…

イキたいのに、…イケないのかも…”


遥香は、お手伝いしたい衝動に駆られた。



思いきって、声を掛けてみた、…小声で。



「あ…、あの、すみません」


すると、
吐息が止まった。

声も止まり、静かになる。




「あ、ごめんなさい…

さっき、電車で目があった…者です。
驚かすつもりはなくて、、、私…、
お手伝いを…したくて…」


遥香が、恐る恐る声を掛けていると、




個室の扉が、ゆっくりと開いた。



そして、




潤んだ瞳で、前を押さえて 凭れて座る、

さっきの青年が、いた。






“あ、…やっぱり…いた…”



声を掛けてみたものの、申し訳なさそうに佇む遥香に、

青年は、
脱力しながら、
「なんだか…わからなくて……お願い…します…」
と告げた。



遥香は、静かに頷き、
ゆっくりと、個室へと 入って行った…