私には、母と父がいて、3人で仲良く暮らしていた。いまの夫の杉崎と出会うまでは、この世界は狭く、実家と職場の行き来を繰り返していた。私は母と父を心から愛していた。杉崎は子供を欲しがり、そしてすぐに、子供ができた。娘はよく泣き、よく寝て、そして泣きわめく。うるさい、といってもまるできかない。母は赤ちゃんはそういうのものよ、あなたもそうであったわ、と幸せそうな笑を浮かべ娘に愛を注いだ。父も同じような笑を娘に向け、そうだぞという。
娘が4歳になった頃、父と公園にいくといって家を出た。私も行きたいといったが、2人はニヤニヤして今日は2人でいくの、と。父の姿を見たのはそれが最後だった。父は道路に飛び出した娘をかばい、トラックにひかれ、即死だったらしい。私は父を愛していた。娘よりもずっと。父じゃなく娘が、そんな事を考えていたら、母に見透かされていたのか、母は私から目を逸らした。