姫君はそう、悲しく呟いた。


「大君様。」

大君つきの女房が、大君に恐る恐る声をかけた。

「何?」

「其方の袿と衵、琴の姫君の物ですよね?」

「琴の姫君?誰、それ。」

「お母上様がお引き取りなすった、貴女の従姉妹君ですわ。お忘れになりましたの?」

「琴、なんて呼ばれているの?」

「ええ、何でも、お琴がお上手なのだとか。」