落ち着け私。修二郎はただからかっているだけた。


 私は私がどんな顔なのかを知っている。劣等感ばかりだが、ちょっと、可愛い部分だってある、はず。たぶん。

 困る私をよそに、「行こう」とさらりというのだから、そっかと冷静になる。
 舞い上がってるのは私だけなんだ、とわかってしまった。


 一旦そう思うと、好きだとかいう気持ちより、早く合流してしまいたいという方が大きくなってしまう。会話だって続かない。

 だから、美咲らを見つけたときに「あ」と声が出た。向こうも向こうで「お」という顔をした。それと同時にふっと、握っていた手が離れた。
 合流出来たという安心と、みんなで花火を見れただけでいいじゃないかと、何を期待しているんだと言い聞かせる。

 有香たちがやってくる。私も向かう。有香たちはまた、修二郎にたくさん話しかけるんだろう。私には出来ないことを、私の目の前でしてみせるのだろう。



「白川」
「なに」
「浴衣、一番似合ってる」
「え…?」



 聞き直すまえに、「菜々美ー!心配したんだよー!」と美咲に言われ、「ちょ、お前ら花火を見るぞ花火!」健太が喧しくいう。有香と優衣はやはり修二郎に何か喋ってるが、うん。


 いちばん、っていったよね。
 いちばん、っていうのは、一番、ってことだよね。

 空耳にしたくないけど、空耳だったら残念すぎる。



 花火はまだギリギリ上がっているが、もうそろそろ終わりだろう。今から場所を探すのは無理だからと、見える所で固まることにする。私は、美咲のとなり。健太が「おおう、去年よりでけぇ」と子供みたいなことを言ってるなか、私はちらりと優衣と有香の間にいる修二郎を見た。

 ―――笑った。

 慌てて花火を見る。クライマックスらしく、次々とうち上がる。うわぁ、とか綺麗とかいう様々な声がする。


 来てよかった。
 お母さん、この浴衣地味でもなんでもなかったよ。それから美咲、楽しくないかもと思っちゃってごめん。むしろ最高だったかも。


 修二郎にもう一回言って、だなんて言えないから、もしかするの聞き間違いとか空耳だとかかもしれないけど。

 好きな人からの一言は、やはり私を変えるのだろう。




 《彼の一言は私を次々と変える》
 
 

2017/7/17